自分にはまだまだやりたいことがあるし、楽しい未来が待っているはずだ。


こんなところで途絶えるわけにはいかない!


そう思ったときだった。


ギィィ……。


コンクリートの壁に反射する音が聞こえてきて蘭は息を飲んだ。


それは階段の奥にあるドアが開いた音だったのだ。


その後コッコッと階段を下りてくる足音が聞こえてきて、蘭はまたゴクリと唾を飲み込んだ。


そしてジッと階段を凝視する。


あの上から一体どんな人が姿を見せるのか、緊張と恐怖で吐いてしまいそうだった。


コッコッコッ。


足音と同じリズムで降りてくる革靴が見えて心臓がはねた。


コッコッコッ。


そこから黒いスーツのすそが見える。


そして黒い皮手袋をはめた両手、やがて、黒い覆面をかぶった男が現れたのだ。


蘭は呼吸することも忘れてその男を凝視した。


覆面の奥に見える目が蘭を捕らえて、咄嗟に視線をそらせる。