玄関先で見つけた黒いキャップを目深にかぶり、蘭は家を出た。


彰の家は住宅街の一角にあるようで、周囲には古い民家が建ち並んでいる。


こんな場所までよく自分を誘拐してきたなぁ。


蘭は呆れ半分、尊敬半分にそんなことを思った。


相当リスクが高かったんじゃないか。


目撃者だって、実はいるかもしれない。


歩きながら時間を確認するために少しだけ見たテレビを思い出した。


偶然昼のニュース番組が放送されていたけれど、誘拐事件についてはなにも言っていなかった。


たぶん、まだ大丈夫だと思うけれど……。


それでも焦燥感が胸にわき始めて、蘭は足早に近くのスーパーへと向かったのだった。