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彰を寝室のベッドに横たえた蘭は彰に気を使い、そっと部屋を出た。


まさか彰が末期のガン患者だとは思っていなかった。


彰から聞いた話を思い出すとまた涙が滲んできて、慌てて手の甲でぬぐった。


一番つらいのは彰本人だ。


今だって体が痛んでいるかもしれない。


蘭を誘拐したときだって、本当は体調が悪かったのかもしれないのだ。


「とにかく、もっと清潔にしなきゃ」


さっき少しだけ入った寝室もひどく汚れていて、布団は湿気て重たくなっていた。


こんな家にいたらよくなるものも良くならない。


そう考えた蘭はさっそく掃除を開始することにした。


腕まくりをして準備をするが、どこをどう探して見ても掃除機が見当たらない。


変わりに古いホウキとチリトリを発見した。


まさか掃除はずっとこれでやっていたんだろうか?


そう思ったが、この家が全然掃除されていないことは明白だった。


ホウキは彰がここに一人暮らしを始める前からこの家にあったものかもしれない。


ついでに汚れたタオルを雑巾にするため用意し、バケツに水も汲んできた。


最初にとりかかるのは地下室に通じている廊下だ。


せっかく日当たりのいい方角に面している窓があるのに、すごくホコリっぽくて勿体ないことになっている。


蘭は窓をすべて開け放ち、外へ向けてホコリをはき出し始めた。