女が目の前で泣いていることに動揺し彰は蘭から視線をそらせた。


「俺のために泣いてるのか?」


「あたり前でしょう!?」


そういわれてもピンと来ない。


蘭にとっては誘拐犯であるはずの自分が死ぬのなら、それは喜んでもいいくらいのことのはずだ。


「お前は、少し変なのか?」


その質問に蘭は眉間にシワを寄せて彰を見た。


「変じゃないです。正常だから、あなたが死ぬのが悲しいんです」


蘭の言葉によけに彰はペースを崩される。


本当なら今頃すでに2人は死んでいるはずだ。


血を吐いて倒れるという失態さえなければ、こんな風に蘭に自分の余命を伝えることもなかった。


蘭は涙をぬぐい、気を取り直すように彰を見た。


彰はなんとなく背筋を伸ばしてしまう。


「この家の中を見て回りました」


「あ、あぁ」


周囲に置かれているものを見ればわかった。


洗面器にタオルにコップに毛布。


これだけのものを用意して戻ってくるくらいなら、逃げ出す時間だって十分にあったはずだ。