両手は背もたれの後ろに回されて拘束されている。


両足は自由な状態だったが、なぜか素足になっていた。


「なんなの」


焦りから呟くと、自分の声がひどくかすれていた。


しかしここまで拘束されていても口が塞がれていないということだ。


蘭は思い切って大きな声を張り上げた。


それこそ、今までの人生でここまでの大声なんて上げたことがないくらいに。


「誰かいるの!? 助けて!!」


蘭の声はコンクリートの壁に反射して返ってくる。


しかし、どこからも反応はなかった。


「誰か助けて!!」


さっきよりも大きな声で叫ぶ。


その声も部屋の中に反響したが、ただそれだけだった。


だいたいこの部屋には窓がないのだ。


どれだけ叫んでも外まで声を届かせるのは難しい。


蘭は次第に自分の置かれている状況を理解してきて、ゴクリと唾を飲み込んだ。


黒目はひっきりなしに周囲を見回し、額には汗が浮かんでくる。


呼吸は少し乱れてきているようだ。


「なんなのこれ……」


そして自分が誘拐されたのだと思い当たった。


あの飲み屋街で、後ろから口を塞がれて、横腹を何発も殴られて。