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男の目が覚めたのはそれから30分ほど経過してからだった。


うっすらを開いた目。


視界の中に蘭が写りこんだ瞬間、男は完全に目覚めたように勢いよく状態を起こした。


「まだ寝ていてください!」


蘭は慌てて男の体を支える。


しかし、男はそんな蘭の手を振り払った。


そして地下室を見回す。


倒れた椅子。


切られたロープ。


刃が出たままのカッターナイフ。


「自分でロープを解いたのか」


「はい。緊急事態だったので」


「じゃあどうして逃げながった!?」


逃げられて困るのは自分のほうなのに、男の声は荒くなる。


蘭はその怒号に一瞬身を固め、それから「ほっとけないでしょう?」と、答えた。


ほっとけない?


誘拐犯の俺のことがほっとけないだと?


蘭をマジマジと見つめる。


蘭は真剣な表情で男を見ていた。


やっぱりこの女は少しおかしいんだ。


かわいそうに。


自分が誘拐されてここにいるということも理解していないのかもしれない。


「助けてあげたんだから、質問に答えて」


「質問?」


男はその場に座り直し、蘭が用意していた水を一口飲んだ。