両足で床を蹴ってどうにか男の近くまで移動しようとする。


が、そんなのうまくいくはずもなく、椅子ごと横倒しに倒れてしまった。


激しい痛みが蘭の体を貫く。


気がつけばここに来た当初のように涙が滲んできていた。


周りの景色がボヤけて見えにくくなる中、蘭はカッターナイフに視線を奪われた。


男が蘭の足元に準備したものだ。


蘭は無理矢理涙を引っ込めると、一番近くにあったカッターナイフを口にくわえた。


舌で起用に刃を出すと、首を曲げてできるだけ後ろを向いた。


そして、プッとスイカの種を吐き出すようにカッターナイフを投げる。


カッターナイフは弧を描き、拘束されている椅子の後方へと落下した。


蘭は足で蹴るようにして椅子ごと少し移動すると、後ろ手に縛られている両手でカッターナイフの柄を握り締めた。


後はロープを切断するだけだ。


その間にも男の様子が気になって焦る気持ちが溢れだす。


5分ほどかけてどうにかロープを切断した蘭はすぐに男に駆け寄った。


1日中拘束されていた体は少し動かすだけで悲鳴を上げるほど痛かったが、それよりも男に駆け寄ることが先決だった。


「大丈夫!? ねぇ、目を覚ましてよ!」


懸命に男の体を揺さぶって声をかけるけれど、男は目を開けない。