「どうして歌う?」


男は昨日にもまして真剣な表情を浮かべていた。


蘭のことを信用していない目つきだ。


蘭はそんな男の顔を真っ直ぐに見返した。


「歌ったらダメなの?」


その質問に男はなにか言いかけて、途中で口を閉じた。


今から死ぬってわかってるのか。


そう言いたかったが、蘭は頭がおかしくなってしまったのだと勘違いしたのだ。


こんな状況だし、被害者がおかしくなっても不思議じゃない。


蘭の場合は元々おかしかったのかもしれないが。


どちらにしても、もう男には関心のないことだった。


やがて男は蘭の足元に自殺道具を移動しはじめた。


ロープ、カッターナイフ、包丁、薬品。


どれも物騒な形状をしていて、ずっと見ていたら悪いほうへ悪いほうへ考えた引きずっていかれそうになる品物ばかりだ。


「なにをしているの?」


「お前に自殺方法を選ばせてやる」