いつの間に眠っていたのか、蘭は物音で目を覚ました。


一瞬ここがどこかわからず、体中の痛みに低いうめき声を上げた。


やがて昨日の出来事を思い出してハッと息を飲む。


蘭は昨日と同じ部屋の中にいて、相変わらず椅子に固定されている状態だった。


さっき聞こえてきた物音が気になって周囲を確認してみると、テーブルの前に男が立っていた。


男は蘭に背を向けて、準備した道具を点検しているようだ。


その後ろ姿を見ていると一瞬にして体の痛みなんて吹き飛んでしまう。


彼が自分の体を拘束したのだと思うと、それも許せてしまうのだ。


これから彼と自分は一緒に死ぬんだ。


無理矢理に殺されるのとは違う。


世間はきっと自分のことをかわいそうな被害者だと思うだろうが、自分はそうは思わない。


自分はきっと世界一幸せな女だ。


だって、好きな人と最後の瞬間を共にできるのだから。


いくら愛し合っている夫婦だとしても、死ぬ時期を同じにすることは難しい。
それができるなんて、夢のようだった。


思わず鼻歌がもれていた。


子供の頃好きだったアイドル歌手の有名曲だ。


調子よくサビの部分まで歌ったとき、男が体ごとこちらへ向けた。


喉から流れ出るメロディがゆっくりと消えていく。