☆☆☆

最後の晩餐はなんだか少し妙な形で終わってしまった。


男はずっと自分のことを疑っていたし、どれだけなにもしていないと説明してもダメだった。


「待ってよ、説明を聞きたいの!」


階段をあがっていく後ろ姿にそう声をかけたけれど、男が戻ってきてくれることもなかった。


誰もいないコンクリートの部屋に残されると途端に胸がつぶれそうに苦しくなった。


寒々しい灰色の部屋。


テーブルの上に並んだ自殺道具。


明日男がこのどれかを使って命を絶とうとしている。


そう考えるといてもたってもいられなくなる。


今すぐとめたくなる。


蘭は身じろぎをしてみたが、やはりロープはそう簡単にはほどけそうにない。


力を込めて引きちぎるのだって無理だ。


でも……。


ふとサンドイッチを食べさせてもらったときの事を思い出した。


食べるふりをして、少しだけ舌を出してみた。


男の指に舌先が触れた瞬間、しびれるような快感が体を貫いたのだ。