そして、バイトも終わると……。


蘭は自転車に乗ってとある集合墓地へ来ていた。


その中で一番日当たりが悪くて、雑草が伸びている場所を目指す。


「あ~あ、こんなに汚れちゃって」


ブツブツと文句を言いながら墓掃除をするのが、蘭の年3度のイベントだった。


誘拐犯のお墓の掃除なんて誰もやりたがらない。


彰はほとんど天涯孤独の身だったし、世間の目もあるし、仕方のないことだった。


蘭は手を止めて真新しい菊の花へ視線を向けた。


表向きにはなにもしていないように見せていても、本当はみんな彰のお墓参りをしにきていることも知っている。


施設の先生や子供たち、それにパン屋の店長。


ただ、長居をしないから雑草だけは蘭が掃除をしているのだ。


手馴れた様子で草刈をする蘭は自然と鼻歌を歌っていた。


とても気分がいいときに出てくる鼻歌だ。


そういえばお母さんにもこういう癖があったっけ。


そう思い出してクスッと笑ったときだった。