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彰が取り調べの最中に亡くなったことは、翌日警察からの連絡で知った。


彰は本当に最後の力を振り絞って、蘭を守ったのだ。


蘭は完全なる被害者だと、世間に植えつけて死んでいった。


蘭はそうじゃないと言いたかったが、彰の最後の優しさを無駄にすることもできなかった。


だからこの誘拐事件の真相は彰と蘭だけが知っている隠し事となった。


それから数年の月日が流れて……。


「おはよう蘭」


「おはよう。今日の講義ってさぁ」


蘭は保育士を目指し、彰と同じ大学に通い始めていた。


それまで子供に興味を持っていなかった蘭だから、周りの人たちは驚いていた。


だけど母親だけはなんとなくわかっていたようで、ただ「頑張りなさい」とだけ、声をかけてくれていた。


大学が終わると近くのパン屋にアルバイトに行く。


ここの店長は蘭のことに気がつくと大いに驚いていたけれど、快く採用してくれた。


どうして自分を誘拐した犯人と同じバイト先に来るのか、気にしているだろうけれど、踏み入った質問をしてくることもなかった。