突然後ろから口をふさがれていた。


蘭は咄嗟にその手を自分の口から引き剥がそうとする。


しかし相手は全身の力を込めて蘭の口を塞いでいて、簡単には解くことができない。


黒い皮手袋をはめたその手は女の蘭のものより一回り大きくて、男のものだということがわかった。


蘭は相手から逃れるために必死に身をよじる。


手足をばたつかせ、塞がれている口で一生懸命声を出す。


しかし、それはどれもこれも効果的なものではなかった。


蘭の後ろに立つ相手は空いているほうの手で蘭の横腹を殴りつけた。


よほどの力がこめられているようで、蘭は「うっ」とくぐもった声を上げて目を見開いた。


痛みが全身に駆け抜ける。


そしてその痛みが去っていく暇もなく、2発目、3発目と同じ場所を殴られた。


内臓を直接殴りつけられているかのような衝撃だ。


眉間にシワを寄せて痛みに耐えていた蘭だが、次第に意識が遠のいていき、やがて男に体重を預けることになってしまったのだった。