蘭ひとりならそれは簡単なことだった。


狭い路地をひたすら歩いて遠ざかればいいだけのこと。


でも、彰がいる。


今の彰は呼吸をすることも難しそうで、どこまで歩いていけるかわからなかった。


「水、サンキュ。もう大丈夫だから、行っていいよ」


彰にそう言われ、蘭は今にも泣き出してしまいそうな表情になった。


探して探してようやく見つけたのに、行っていいよなんて言われたくない。


「あたしは彰と一緒にいたい」


「俺と一緒にいたって、どうせもうすぐ死ぬ」


その言葉に心臓がドクンッと大きく跳ねた。


警察に捕まって捕まらなくても、彰の命は残り少ない。


それは蘭だって見たら理解できることだった。


それでも一緒にいることに決めたんだ。


「一緒に死ぬとか、もう言うなよ」


先を越されて蘭は彰をにらみつけた。


「あたしを殺すつもりだったくせに」


「そういえばそうだったな……。でも、もうやめた」


彰はそう言うとうっすらと笑みを浮かべた。


蘭もつられて笑う。