「なにを言っているのよ蘭。あなたはあの男に誘拐されたのよ? すごく怖い思いをさせられたんでしょう」


母親の目からは涙がこぼれだしていた。


ボロボロボロボロと、父親が死んだときにだってそれほど泣かなかったのに。


それでも蘭は母親の言葉を否定するしかなかった。


たしかに自分は彰に誘拐された。


最初は殺されるかと思って怖かった。


だけどそれはほんの一瞬だった。


覆面を取った顔を見た瞬間、そんな恐怖は消えて行ったんだから。


蘭は母親の手をそっと離した。


「ごめんお母さん。あたし、行かなきゃ」


彰が行きそうな場所は、まだ心当たりがある。


そこを調べてからじゃないと家には帰れない。


「待って、蘭!」


蘭は後ろから聞こえてくる母親の声を無視して、走り出したのだった。