母親の目は真っ赤に充血し、目の下にはクマができて、化粧もしていないのか一気に老けてしまったように見える。


髪の毛はボサボサで、服は灰色のスウェット。


家にいるときでももっとキレイにしていたのに。


それでも間違いなく、今目の前にいるのは蘭の母親だった。


「お母さん……」


蘭はカラカラに乾いた声で呟く。


「さっきテレビニュースであなたの姿が映った気がしたの。まかさと思ってきてみれば……」


そこで言葉を切り、両手を口に当てる。


その目からが大粒の涙が溢れ出していた。


蘭は驚いて母親を見つめた。


この人が自分のために泣いている。


それが信じられなかった。


父親が死んだ後の地獄のような2年間は一体なんだったのか。


自分の体に刻まれている虐待の痕は嘘なのかと思うような光景だった。


「あの男のところからよく逃げてきたわね。さぁ、一緒に帰りましょう」


母親が蘭の右腕を掴む。


しかし蘭は咄嗟に身を硬くしていた。