だけど相手は自分のことを知っているらしい。


他人の空似かもしれない。


でも、万が一、蘭の顔写真がテレビで公開されていたとしたら?


彰のことはすでに大きな事件になっているから、被害者である蘭のこともテレビニュースでやっているはずだ。


この人はそれを見て蘭の顔を知っているんだ!


悪い想像はふくらみ、蘭はその場から駆け出した。


逃げるときに彼女と肩がぶつかったけれど、謝る暇だってなかった。


そのまま女子トイレに駆け込んで、個室に入ってカギをかけた。


ずるずると便座に座り込み大きく息をして呼吸を整える。


全身が小刻みに震えていることがわかった。


どうしよう。


さっきの人自分に気がついて警察に連絡するかもしれない。


そうなると蘭は保護されて、やはり彰とは二度と会えなくなってしまうだろう。


それが今の蘭にとっては一番の恐怖だった。


考えただけで目の前は真っ暗になっていく。


彰がいない人生なんて考えられない。


「どこに行っちゃったの……」


蘭は頭を抱え、呟いたのだった。