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居酒屋にもパン屋にもいない。


意気消沈してきた蘭が次に訪れたのは彰が通っていた大学だった。


この近辺で幼児教育学科がある大学はK大学しかない。


しかし、大学に近づいたときここにも沢山の記者が詰め掛けているのが見えた。


大学はすでに始まっている時間だから、生徒たちに危害が加えられないよう警備員と押し合いになっている。


蘭はその様子を少し離れた場所で確認した。


大学生に混ざってそ知らぬ顔をして侵入することはできると思う。


だけど、自分が誘拐された被害者だとバレることは許されない。


そんなことになったらもう二度と彰には会えなくなるだろう。


蘭は大きな灰色の大学を見上げてみた。


学科が多い分蘭が通っている高校よりも一回りほど大きい。


灰色のその建物の中に彰はそっと身を隠しているかもしれないのだ。


ここまで来て引き返すなんてありえなかった。


「よし、大丈夫」


蘭は口に出してそう言い、マスクの位置を直すとせめぎあっている報道陣の中へと自ら入って言ったのだった。