しばらく通っていたから相手も蘭の顔を覚えているはずだ。


「はい?」


店長は怪訝そうな顔をうかべて蘭に近づいてくる。


蘭は一歩後退して、店の外へ出た。


「勝手に入ってごめんなさい。どうしても話が聞きたかったので」


追い返されてしまわないよう、先に頭を下げる。


自分だと悟られないように、少し声を低くした。


「話って?」


「あの、ここに勤めていた尾島彰さんのことなんですが」


そう言った瞬間店長は顔をしかめて、深いため息を吐き出した。


「もしかしてあなた、記者の人ですか?」


そう聞かれて、蘭は咄嗟に「はい」と、答えていた。


いい意味で勘違いしてくれている。


「他の人にも何度も説明したけどね、彰くんは働き者でとてもいい子だったよ。女子高生を誘拐なんて考えられない。人違いなんじゃないか?」


店長は蘭を射るような目になってそう言った。


テレビニュースでは散々彰のことを悪く伝えているようだから、腹を立てているのだろう。


それくらい彰は信頼を得ていたのだ。


「わかります。彰さんは悪い人じゃありません」


蘭は思わず力強く同意してしまい、店長は拍子抜けしたようにポカンと口を開けて蘭を見つめた。