裏手の重厚感のあるドアをノックする。


しかし忙しいのか聞こえていないのか、誰も出てくる気配がない。


もう一度ノックしてみるが、結果は同じだった。


そうしている間にも彰はどこかで倒れているかもしれない。


そう思うといてもたってもいられなくなり、蘭は勝手にドアを開けていた。


「すみません、誰かいませんか?」


ドアをあけると短い通路があり、右手に従業員控え室、左手に従業員用のトイレがあった。


そして突き当たりの部屋がパン工場というわけだ。


突き当たりの部屋の中からは光も音も漏れてきている。


「すみません!!」


蘭は作業中の人でも聞こえるくらい大きな声を上げた。


すると何事かと慌てたような足音がして、突き当りの部屋のドアが開いた。


出てきたのは蘭も何度も見たことがある、この店の店長さんだ。


30代半ばのその人は人のよさそうな、丸っこい顔をしている。


蘭は咄嗟にマスクを鼻の上の方まで移動して、顔をかくした。