次に蘭が訪れたのは彰を初めて見たあのパン屋さんだった。


彰が奥から出てきたときの衝撃は今でも忘れることができない。


自分と彰の時間だけ停止してしまったかのように、ひどくスローモーションに見えたのだ。


その瞬間、蘭は思った。


あぁ、この人があたしの運命の人なんだ。


そしてそれを信じて疑わなかった。


蘭は一瞬にして彰のとりこになり、翌日から張り込みの刑事のようになってしまったくらいなのだから。


それ以前にも智志に同じような行為をして警察沙汰にまでなっているのに、自分が悪いことをしているなんて、少しも感じなかった。


前と同じことをしているという自覚もない。


だって今度こそ運命の相手を見つけたのだから、相手が迷惑がっているわけがない。


本気でそう考えていた。


パン屋の開店時間まではまだ30分ほどあったけれど、中からパンが焼けてくるいい香りが漂ってきていた。


表から入ろうとしても、もちろん鍵がかけられている。


蘭は従業員入り口のある裏手へと回った。


何度も彰が出入りしているところを見ているから、勝手知ったる店になっているのだ。