片手にカッターナイフを握り締めたまま家から飛び出すと、外の路地へ出た。


外は暗く、周囲に人の気配はない。


しかし男は注意深く家の周りを一周すると、今度は部屋の中をくまなく調べまわった。


そこになんの変化もないことを知ると、今度は蘭の持っていたものを確認した。


位置情報がわかるスマホは、もちろん電源を落としている。


他に外部の人間と連絡を取り合えるような道具はない。


なにより、蘭は今拘束されていて誰かと連絡を取るようなことはできないはずだ。


それなのにあの余裕。


一体なんなんだ……?


焦りが生じ始めた男は早足に階下へと向かった。


重たいドアをあけてコンクリートの冷たい階段を下りていくと、さっきまでと同じ状態で蘭はいた。


「仲間がいるのか?」


近づいて質問すると、蘭は瞬きをする。


そして大きな声で笑い始めたのだ。


この状況で笑えることと部屋の壁に反響する蘭の声にビクリと体を震わせる。


「そんなわけないじゃないですか。どうやって仲間を呼ぶんですか?」


蘭の言うとおりだ。


しかし男は警戒を緩めない。


蘭がなにかを隠し持っているのではないかと考え、後ろに回って手元を確認する。


しかし蘭はなにも持っていない。


それなのにこの余裕。