小学校時代の数年間を悲しい思いと共に過ごした蘭は、異性を好きになると周囲が見えなくなることもままあった。


翌日から蘭はバトミンドン部を無断欠席し、パン屋へ向かうようになったのだ。


しかしその日は残念ながらいくら待ってみても彰の姿を見ることができなかった。


そこでパン屋の店長に「尾島さんはいつ出勤してきますか?」と質問したところ、それは個人情報だから答えられないと返されてしまった。


そう言われると無理に聞き出すことはできない。


しつこくして警察に通報されても困る。


そこで今度は店の近くの小さな公園で、彰が出勤してくるのを待つことにした。


どうしても彰のシフトを把握したくて、一週間同じことを繰り返した。


「蘭、部活やめたの?」


同じバドミントン部の子にそう声をかけられて、そういえば自分は部活動に入っていたのだということを思い出した。


彰を見張り始めてから、部活のことなんてすっかり忘れてしまっていたのだ。


蘭はその日の内に退部届けを提出した。


すべては彰と出会うため。


そしてようやく、彰は週に3日このパン屋にアルバイトに来ていることがわかった。


金曜日の夕方から閉店までと、土日にフルタイムだ。


そこまでわかれば彰が出勤している日を狙ってパン屋に来ればいいのだが、蘭はそれでは飽き足らなかった。


それよりも先に、もっと彰のことが知りたいと願った。