トレイを左手に、トングを右手に持って店内の商品に視線を泳がせる。


体を使った後だから甘いものがいいな。


家に戻って夕飯までに食べるパンもほしい。


そんなことを思って次々とトレイに出来立てのパンを乗せていっていたとき、店の奥から出来立てのパンを持ってきた店員さんを見かけた。


「ただいまレーズンパン焼きたてです」


店内によく通る声。


そして棚に並べていくその姿。


その顔を見た瞬間、蘭の心は奪われていたのだ。


スラリと背が高くてまるでモデルのような体系。


顔立ちも整っていて中世的で、どこか病弱そうに感じられるその雰囲気が余計に蘭の興味を引きつけた。


こっそりと胸につけられているネームを確認すると、そこには尾島と書かれていた。


残念ながら苗字だけで、下の名前まではわからなかったけれど。


それが、蘭にとって初めて彰と出会った瞬間だったのだ。


そしてその瞬間に恋に落ちていた。