男は気を取り直して再びサンドイッチを蘭の口元へ持っていく。


今度は舌が当たることもなく、食べてくれた。


「うん、やっぱりおいしい! 最後の晩餐としてふさわしい味だよね!」


本当に明日死ぬと理解しているのかどうか怪しいほど元気だ。


「お前、死にたいのか?」


男は蘭にサンドイッチを食べさせながら聞く。


「え、どうして?」


「動じてないようだから」


「死にたいわけじゃないけど、死ぬんでしょう?」


首をかしげて質問してくる蘭に、ますます調子は狂ってしまう。


「それはそうだけど、なにかあるだろう?」


男は怪訝な表情になり、蘭を見つめる。


「なにかって?」


首をかしげる蘭に、男の不信感は頂点に達した。


勢いよく立ち上がり、テーブルの上のカッターナイフを握り締めたかと思うと蘭の鼻先に突きつけた。


蘭は目を丸くして男を見つめる。


「お前は何者だ」


「何者って、保険証を見たなら知っているでしょう?」


そう言うと、男は弾かれたように階段を駆け上がる。