「でも……」


更に何か言おうとする彰をせきたてて、蘭はこの家から脱出する準備を始めた。


彰に買ってもらったものはすべて持って行きたかったが、そういうわけにもいかない。


彰も覚悟を決めたようで、現金や簡易的な食べ物を袋に詰め込んだ。


そして。


「これ、返しておく」


と、蘭から奪ったバッグを差し出して来たのだ。


蘭は大きく目を見開きバッグを受け取った。


中身を確認してみると、サイフもスマホもちゃんと入っている。


「でも、これ……」


「蘭は被害者じゃない。だからそれを持っていても大丈夫だろう?」


彰に言われて、蘭は頷いた。


その通りは蘭は自分の意思でここにいる。


決して無理矢理ではない。


蘭はバッグも袋に詰め込んで、窓からそっと外を確認した。


高い壁があるおかげで人の姿は見えないが、


それでも道路からは沢山の話し声が聞こえてくる。


近所の野次馬か、報道関係者か、警察官か。


その全員という可能性もあり、背筋が寒くなった。


ここで捕まるわけにはいかない。


彰の命はもういくばくもないのに、離れ離れになんてさせられてたまるか。