蘭は眉を寄せた。


それは今にも泣き出してしまいそうな苦しげな表情だ。


「ごめん。でも、きっとそんなことはないよな。蘭は俺が誘拐してきただけなんだから。元の生活に戻ればいいだけだ」


そうかもしれない。


だけど違う。


全然違う。


気がつけば蘭の頬に涙が流れていた。


自分を誘拐した男が今にも死にそうだ。


それを目の当たりにして、泣いている。


彰は手を伸ばして蘭の頬に流れる涙をぬぐった。


「そんなこと言わないで。最初の予定通りあたしを一緒に連れて行って」


蘭の言葉に彰は笑ってしまった。


声を出して楽しげに。


「そんなことを言うとは思わなかったな」


彰はもともと蘭と無理心中をするつもりで誘拐した。


あの事件に触発されて、自分なら生き残ることなく死んでみせると意気込んで。