「前にこうして熱が出たとき、この家には誰もいなかったんだ」


ぼそぼそと小さな声で話す彰。


蘭は彰の言葉を聞き逃さないようにしっかりと耳を傾けた。


「誰もいなくて、夜になったらどんどん熱が上がってきて、全然下がらなくて、苦しくて。もうこのまま死ぬんじゃないかと思った」


そして、口角を上げて少し笑った。


「ただの風邪で死ぬことなんてそうそうないのにな」


「でも、わかるよ。ひとりだと心細いよね」


蘭は頷く。


「今回も俺はもう死ぬんじゃないかなって思った」


その言葉に蘭の心臓が大きく跳ねた。


自分だけじゃなくて、彰自身も同じ心配をしていたのだ。


「でも、目を覚ますたびに蘭がいて。あぁ、今はひとりじゃないんだって思うと、不思議と安心できた」


「うん」


「ただ……俺がいなくなったら、蘭はひとりになるのかな?」


「……どうしてそんなことを聞くの?」