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男は蘭のためにサンドイッチの包装を解いていた。


「あたしそのサンドイッチ好きなんだ。スーパーの中にあるパン屋で売ってるやつだよね?」


蘭は男の手元を見てしゃべる。


その様子はすでに教室の中のおしゃべりと同じ調子だった。


一方、調子が狂っているのは男のほうだった。


愉快された相手というのはもっと犯人のことを怖がり、おびえて、助けてほしいと懇願するものじゃないのか?


すべてテレビや映画などで知っている知識だったけれど、少なくても蘭がこんなに元気な状態でいることは想定外だった。


男は蘭からの質問に返事をせず、サンドイッチをひとつ掴んで蘭の前に突き出した。


「あ、ありがとう」


蘭は嬉しそうに言って口を開ける。


男はその口にサンドイッチを入れた。


と、その瞬間。


蘭の舌が男の指をなめた。


男はビクリとして手を引っ込め、蘭を見つめる。


サンドイッチを食べることができなかった蘭は仏頂面になって「ちょっと、食べられないじゃない」と、口を尖らせる。


気のせいか?