「ほら、どれがいい?」


今度はちゃんとした婦人服売り場へやってきた。


「どうしようかな」


蘭が近づいて行ったのはワゴンセールだ。


ポップに《どれでも500円!》と、大きく書かれている。


ワゴンに近づいていく蘭を引き止めて、彰は傍らにあった白いワンピースを蘭の体に当てた。


「うん、似合うんじゃない? でもまだ少し早いかな。春っぽくパステルカラーの方がいいかな」


「そんな、あたしは動きやすい服が一着あればそれでいいよ」


蘭は慌てて言う。


幸い洗濯物はすぐに乾く日和が続いているし、洗い変えが一着あれば十分だ。


しかし、彰は許してくれなかった。


「ここで金を使わなかったらいつ使うんだよ。俺、もうすぐ死ぬんだぞ?」


冗談っぽく言われた言葉が蘭の胸を貫く。


こうして2人ではしゃぎながら買い物をしていると、ついその事実を忘れてしまいそうになる。


そして思い出すたびに胸が痛むのだ。


彰は半ば強引にワンピースやパジャマなど、何着か選んでレジへと向かった。


結局蘭の服だけで1万円を超えてしまった。