再婚後の母親は今までの自分の幸せを取り戻そうとするように、快活で明るくなった。


毎日食事を作り、掃除をして、時間がある時に茶道を習いに行くようになった。


家だって、アパート暮らしから一軒屋に引っ越すことになり、蘭の暮らしも一変することになった。


お金や愛情に余裕があると、これほどまで違う景色を見ることができるのだ。


蘭はそのことに感激し、また死んでしまった父親に申し訳なくもなった。


お金はなかったかもしれないが、あの生活も幸せなものだった。


なにより、前のお父さんがいなければ蘭はこの世には生まれていなかったのだから。


平野さんは優しくて蘭の遊び相手もよくしてくれた。


死んだ父親の墓参りにも一緒に行くし、文句のない紳士だった。


それでも蘭の心から完全に傷が消えることはなく、体の傷はいまだに生々しい痕を残したままだった……。