とにかく、蘭は今日の大きな行事をやりきったのだ。


玄関に入った瞬間全身から緊張が解けて座り込んでしまいそうになった。


「お母さんね、平野さんの再婚しようと思ってるの」


まだ夢着心地の母親は蘭にそう言った。


食事をしているときから、そうなのかもしれないと思っていた。


平野さんはカッコイイし、お母さんはまだ若い。


一緒になってもなんの問題もなかった。


ただ2人の間で問題になるとすれば、蘭のことだろう。


だけどそれも平野さんが承知してくれたからこそ、今日の食事が実現したと思っている。


「いいと思うよ」


蘭は何と言っていいかわからなかったが、否定だけはすまいとしてそう答えた。


途端に母親は中腰になり、蘭の体を抱きしめた。


蘭は困惑し、逃げることも抱きつくこともできずに立ち尽くす。


母親のぬくもりを感じたのは本当に久しぶりのことだった。


あの、父親の葬儀の日、冷たい言葉を投げてきた母親と同一人物だとは思えないぬくもり。


「ありがとう……ごめんね、蘭」


蘭にとっては突如現れた平野という男性のおかげで、母親から蘭への虐待は止まることとなった。