平野さんはなんでも注文していいよと蘭に言い、メニューを手渡してきた。


しかし、目につくのは昔3人で食べたものばかりだ。


この席でそれを注文するのはきっと危険だ。


そう思った蘭は焦り、横目で母親を見た。


母親はまるで女神様みたいな視線をこちらへ向けている。


蘭がなにをしても許してもらえそうな雰囲気。


しかし、蘭はいつも注文していた食べ物は口には出さなかった。


食べたことのない、よくわからない漢字の食べ物を指差して「これがいい」と、伝える。

「あら、これは少し辛いけれど、大丈夫?」


横から見ていて母親に言われ、蘭は大きく頷いた。


本当は辛いものは苦手だけれど途中変更はゆるされないと思った。


結果、出てきた麻婆豆腐は火を噴くほどに辛かったけれど、どうにか食べきることができた。


何事もなく食事は進み、平野さんは高級車で蘭と母親をアパートまで送り届けてくれた。


車を見送っているときの母親はまるで夢を見ているお姫様のような雰囲気をまとっていた。