この日は母親も緊張している面持ちで、その緊張は蘭にもうつってしまっていた。


それから10分ほど経過したとき、スーツ姿のスラッと背の高い男性が現れていた。


男性が現れると同時に母親は微笑を浮かべ、席を立つ。


蘭もそれにならって椅子から立ち上がった。


「少し遅れたかな、ごめん」


男性は高級そうな腕時計を見て言った。


「大丈夫よ。今来たところだから」


母親の声は一オクターブ高くなっている。


こんな声を聞くのは久しぶりのことだった。


「やぁ、はじめまして。君が蘭ちゃんだね?」


男性に名前を呼ばれて蘭は背筋の伸ばし、笑顔を作った。


「はい。はじめまして」


ぎこちなく頭を下げると男性は感心したように頷いた。


「しっかりと挨拶ができる、いい子だね」


今のは母親へ向けて言われた一言だった。


母親は満足そうに微笑んでいて、ホッと胸を撫で下ろした。


どうやら今の感じでよかったみたいだ。


それから母親が蘭へ向けて男性のことを紹介した。


蘭が思っていた通り、この人が平野さんという人のようだ。