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それから数時間後。


蘭は母親に連れられて駅前の中華レストランに来ていた。


父親が生きていた頃に何度か3人で訪れたことのあるレストランだ。


それぞれのテーブルが中華風のパーテーションで区切られていて、気楽に食事ができる場所だ。


店内に入ると母親は店員に「予約をしている平野です」と説明した。


平野って誰だろう?


この時はまだ父親の苗字である大北だったので、蘭はただ首をかしげるばかりだった。


そして案内された席へ向かうと、まだ誰の姿もなかった。


しかし、椅子は3脚。


そこに自分と母親以外の誰かが座るということと、その人の苗字が平野なのだとうということは安易に想像できた。


ということは、このお店の予約は平野という人がしてくれたことになる。


「いい? 今から合う人はお母さんにとってもとても大切な人なの。だからわがままを言ったり、食べこぼしたりとか、しないでね?」


蘭はただ頷いた。