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蘭にとって母親の言葉は絶対だ。


真っ直ぐ帰れと言われたら、それに従うほかはない。


5年生にもなるとクラブ活動への参加などもあったが、蘭は顧問の先生に家で休養があるからと説明して、すぐに帰してもらることにした。


足早へ家へと向かう最中、蘭の心臓は今にも張り裂けてしまいそうだった。


この2年間母親の手や足が蘭を攻撃しなかったときはほとんどない。


もちろん、そんな母親はいつでも鬼ような形相で蘭を睨みつけてきていた。


それが今朝はどうだったか?


まるで以前の母親のように優しく微笑み、おいしいご飯を作り、蘭に話かけてきた。


それは蘭にとって嬉しい出来事というよりも、恐怖の始まりのように感じられた。


あの母になにがあったのか。


小学校5年生の蘭は吐き気がするくらいの緊張感を持って玄関を入った。


「あら、おかえり蘭」


玄関の開閉音を聞いた母親がすぐにかけて出てくる。