☆☆☆

父親の葬儀が行われても、まだ蘭はよく理解できていなかった。


目の前で起こった事故のせいで父親が死んだなんて、なにもわからないままだった。


だって父親は事故に遭う直前までとても元気だった。


自分の手をしっかりと握ってくれていた。


それなのに、人間がそんなに簡単に死んでしまうなんて……。


「あんたが殺したのよ」


葬儀の席で母親は言った。


いつもキレイな母親がこの日は化粧もせず、髪の毛もボサボサで、目を血走らせていた。


それは昔聞いた鬼ババそのものに見えて、蘭は震え上がった。


お母さんは物語の中の鬼ババだったの?


お父さんがいなくなったら、本当の姿を見せたの?


幼い蘭は本気でそう思っていた。


母親が鬼になってしまったのは、自分のせいだったのに。