「今度は蘭が教えてくれないか?」


彰の指は相変わらず蘭の背中をなでている。


その指先の感触は少しくすぐったい。


そしてその指が今どこをなでているのか、蘭はすでに知っていた。


「この傷、どうした?」


いつかは聞かれると思っていた。


最初に抱かれたあの時から、彰はきっと気がついていたはずだ。


蘭の背中にある、大きな傷跡に。


それだけじゃない。


蘭の体には他にも無数の傷が残っていた。


太ももや二の腕。


服に隠れる部分はすべてと言ってもいい。


どれも古くほどんど消えかけて、黒ずみになっている傷もある。


彰に触れられたって少しも痛くない。


「大したことじゃないの」


服で隠れる傷は今まで誰からも触れられたことはなかった。


体育の授業の日はさざと遅れて着替えをしたし、学校で水泳時の授業がなかったことも幸いしている。


だからこうして面と向かって傷について質問されることも、初めての経験だった。