蘭はゴクリと唾を飲み込み、慌てて前を向いた。


「それなら、彰さんがやりたいことに使いましょう。彰さんのお金ですから」
そう言うと彰は少し考えて「それならやっぱり蘭の服を買いに行こう。まずは蘭のためにお金を使いたい」と、答えた。


そう言われると断ることはできなかった。


蘭はうなづくしかない。


それから彰は蘭の背中に自分の指を這わせた。


蘭はその感覚にビクリと震える。


全身の感覚が背中に終結してしまったかのように、敏感にその指を感じ取る。


「蘭、俺はもうすぐ死ぬ」


蘭は頷いた。


もうそれは紛れもない事実だとわかっていた。


そしてその事実があったからこそ、自分たちはこうして一緒にいることになったのだと。


「だから、もう誰にも話すことはできなくなる」


それは、彰が自分の生い立ちを話すときにも言っていたことだった。


もう蘭以外の人間と話をすることはない。


だからこそ、教えてくれたこと。