それが余計に不振に感じさせなかっただろうかと、心臓が早鐘を打ち始める。


「あら、夫婦で仲良がいいわねぇ」


主婦は何気なく声をかけてきて、蘭が笑顔で応じている。


彰はそんな蘭の腕を掴み、主婦に軽く会釈してその場を早足に通り過ぎた。


家に戻ってきた彰は厳重に玄関の鍵をかけて、大きな窓のカーテンを閉めた。


「警戒してるの?」


蘭が心配そうに顔を覗き込んでくる。


「あぁ……」


「2人ともマスクをつけていたし、きっと大丈夫だよ」


「わかってる。俺の気にしすぎた」


彰は額に浮かんでいた冷や汗を手の甲でぬぐう。


それを見た蘭はすぐにキッチンへ向かい、冷たい水をコップに汲んできてくれた。


彰はそれを受け取り、喉を鳴らして一気に飲み干した。


少しだけ気分がスッキリした。


不安な気持ちも落ち着いてきた。


なにをここまで気にしているんだろう。


蘭はまだ自分の隣にいるし、今は自分の意思でここにいてくれている。


それなら誰が来たって、不安がることはない。


自分にそう言い聞かせて、まだ心配そうな表情を崩さない蘭へ向けて微笑んで見せた。