これに加えて奨学金制度を使えば、後はバイト代だけでどうにかやっていける目処がついた。


「本当に、ありがとうございました」


施設を出るとき、卒業式でも泣かなかった彰はボロボロと涙を流して泣いた。


近所に引っ越すだけなんだからいつでも戻ってこられるとわかっているのに、涙を止めることはできなかった。


初めて一人で暮らすんだ。


これだけ沢山の人たちに囲まれてきたのに、突然一人になるんだ。


そう考えるとひどく心細かった。


まるで、自分だけ遠い島国へ旅立っていくような感じがした。


「いつまで泣いてんだよ」


そう言って彰の頭を叩いたのは健二だった。


健二は彰と同じ高校を卒業し、そして今日一緒に施設も卒業する。


あれだけ体格差があった彰と健二はこのとき、とほんど同じ身長になっていた。


「じゃ、俺は行くからな」


ぶっきらぼうに手を振り、すぐにみんなに背を向けて歩き出す健二。


その横顔を見ると目に涙が浮かんでいるのがわかった。


最後までかっこつけやがって。


彰はそんな健二を見てつい笑ってしまった。


「じゃあ、また!」


彰は笑顔で施設のみんなに手を振って、健二と一緒に施設を出たのだった。