最初はそう言われることが嬉しかった。


自分は健二よりもいい子なんだ。


自分は小さな子たちのお兄さんなんだ。


でもそれは同時に自分の気持ちを殺すことにも繋がっていた。


本当はもう少し甘えたい。


本当はもう少し遊びたい。


そんな気持ちを彰は小学校低学年ですでに見て見ぬふりをしはじめていた。


そして、月日は流れ、18歳になった。


高校の卒業式を終えて施設に戻ってきた彰にとって、今日はもうひとつの卒業式でもあった。


赤ん坊のころからずっとお世話になっていたこの施設からの卒業だ。


進路は近所の大学に決まっている。


ずっと小さな子のお世話をしていた彰は、それを特技として保育氏の道へ進むことを決めたのだ。


幸い、近くの大学には幼児教育学科があった。


アルバイトだけで学費とアパート代を支払うのが厳しいとなると、施設の先生が格安で家を貸してくれることになった。


先生の親戚の暮らしていた家で、今では誰も住んでいないらしい。


家賃は月5000円。