この男は自分の誘拐した男だ。


どれだけかっこよくてもそんなのは関係ない。


「あ、あたしをどうするつもり?」


蘭の声はまだ少し震えていた。


男はカッターナイフを蘭を向けると、白い歯を除かせて笑う。


「俺と一緒に死んでもらう」


蘭は一瞬息を飲み、男からカッターナイフへと視線を移動させた。


蛍光灯の光でカッターナイフの刃はギラギラと光っている。


その刃は今にも蘭の白い肌を切り裂いてしまいそうだ。


蘭は呼吸を整えて男へ視線を向けた。


その大きな瞳を見つめると、男は一瞬たじろいだようで蘭から視線をそむけ、カッターナイフをテーブルに戻した。


「明日、決行する」


「どうして今日じゃないの?」


蘭からの質問に男は驚愕し、勢い欲振り向いた。


自分がこんな状況にあるというのに、そんな質問をしてくるとは思っていなかった。


誘拐され、拘束され、挙句の果てに一緒に死んでもらうと宣言した。


それなら普通は死にたくないと懇願するのではないか?