「ちょっと、そこ! あなたたちは美容師じゃなくてペテン師になりたいの?」
 山口先生の講義は、とても面白い。何故なら、言動のすべてにおいて超とドが付くほどの直球だからだ。この歯に衣着せぬ物言いが苦手な人もいるけれど、僕は講義のたびに清々しい気分になれる。因みに、今日の彼女の格言は、【シャンプーに手を抜く美容師は、100%ペテン師】だ。
僕が通うこの美容専門学校は、美容師を目指す学生の他、スタイリストやメイクアップアーティストを志す学生が全国から集まってくる。僕は美容師を目指す学科を専攻しているが、メイクもファッションもオールマイティーにこなせるスタイリストを目標にしているため、時間の許す限り補講も居残りも厭わず、施錠時間ぎりぎりまで学校に居座っていることが多かった。
 通学に要する時間は、電車で10分以内。快速列車で2駅区間。最寄り駅の美山から、隣町の芹山まで平日はマネキン入りのボストンバックをかついで電車通学。これが僕のルーティーンだ。アフターは居残りがなければ、芹山駅近くのカフェでバイト。今日はバイトは入っていないが、たまには居残りせずに帰ってみようか。