「頑張って。私はそろそろ帰るから。じゃあね」
「うん、ばいばーい。あ、明日はもちドのつぶつぶイチゴの果肉まるごとジャムソースってやつ持ってきて」
「え、そんなのあるの?」
「知らない。あるかヒゲ店長に聞いてみて」
「……おそらくだけど、ないと思うよ。梨歩のオリジナルでしょ? それ」
「あ、バレた?」
「……」
 梨歩の言動に翻弄される日々が続くと、時折「一度本気で彼女と喧嘩をした方がいいのかもしれないな」という思いが一瞬(よぎ)ることがある。が、一瞬で消える。まあ、喧嘩をすればいいというものでもないし、しなくて済むならそれにこしたことはないのだけれど。
 とりあえず今は、梨歩と私――それぞれの夢に向かって双方できることを精いっぱいやること。これに尽きるだろう。