肩にかかるくらいの、ふわふわした天然パーマ。梨歩は中学卒業と同時に、黄みがかったオレンジ色に髪を染めた。それからずっとそのオレンジ色の髪は、梨歩のチャームポイントとなり、本人の一番のお気に入りのパーツでもあるようで。
「若葉は黒々艶々(つやつや)していて、しかも天然のストレートヘアーでしょ? シャンプーのCM出られそうだよね」
「ありがとう、実は結構こだわってるの。市販のシャンプーに少量のクエン酸を混ぜて使うと、地肌の皮脂詰まりが改善されて、サラサラで艶のある綺麗な髪になるから。これ、意外と手軽にできるからお勧めよ」
「へえ、それは知らなかった。それ、あたしもやってみたい」
梨歩は髪色にこだわりがあるようで、今の色味は気に入っているものの、なかなか再現できる美容室に出会えないと嘆いていた。今の色味に染めてくれた担当の美容師さんは、梨歩が入院する前に地元の仙台市で独立するために辞めてしまったらしく、次のカラー担当候補を探しているのだとか。
「染めるとどうしてもパサついたり切れたりするからさ。ブリーチすれば色はきれいに入るけど、ケアが大変で。クエン酸ね。じゃあ今度はクエン酸の差し入れお願い」
「え、ホントにやるの?」
「え、だって若葉が言ったんじゃん。お勧めだって」
「それはそうだけど……」
次はクエン酸も持参しないとね。
「あ、ドーナツもお忘れなく」
やっぱりそう来たか。
「はいはい。ドーナツとクエン酸ね」
いいなと思ったら即実行。梨歩は考えるよりも先に行動に移すタイプだ。チャンスがあればいつだって果敢にものにしようとする。慎重派な私は、こういう素直さと行動力は時に見習うべきかもしれないと思った。