「いたた……」
不意に両膝に痛みが走る。
「どしたの?」
「さっき来るときに、転んで膝を思いっきり打っちゃって」
「あはは、鈍くさ!」
「う……」
「さすが、『転倒虫』って呼ばれてただけのことはあるわ」
それ、中学生の時につけられた私のあだ名だ。まだ覚えられていたなんて……。
「うるさいなぁ。別に転びたくて転んでるわけじゃないし。今日のは事故よ。ピンヒール履いた貫禄のあるオバサンに突き飛ばされたのよ」
「何それ! 超見たい! ねえ、動画ないの?」
「あるわけないでしょう」
「あはは、そりゃそーだ」
「さっきエレベーターに一緒に乗ってた人がツイ〜トするって言ってたのはチラッと聞こえたけどね」
「え、マジ? あたしも気になる。見てみよ」
梨歩はいつもこんな感じで、半年前から病床に臥している。本人曰く、“人一倍元気な病人”らしい。
「えっと、#ピンヒール #オバサン、と……」
「ちょっと、何してるの?」
「え、ツイ〜トだよ。めっちゃ気になるからさ」
「さすがに早すぎるでしょ」
「……あ、もしかしてこれかも」
「え?」
嘘でしょ。だって、まだ10分も経っていないはずなのに。
「あはは!『さっき病院の上りのエレベーターの中で、潰れそうなピンヒール履いた100キロくらいのオバサンがいたんだけどォ! 女の子突き飛ばして2階で降りてった! ヤバくねェ?』だって」
「ホントだ……」
SNS恐るべし。
「しかも、すでに何件かリツイ〜トされてる。皆暇なのかな? コメントもあるよ」
「『ツイ〜ト早くね? ホントに今の今だしwww』って……。絶対さっき一緒にいた人じゃん。そばにいながらツイ〜トもするって……」
あのオバサン、まさか自分がSNSでネタにされてるなんて夢にも思わないだろうな。
「それにしても、ギャルの拡散力ヤバいね」
「梨歩、会ってもいないのにギャルってわかるの?」
「え? アイコンからしてギャルじゃないの、この人。アカウント名も“卍ァャヵ卍”って」
まさかの顔写真。身バレとか気にしないのだろうか。しかも卍囲みって、センスが微妙。さらに意外と名前表記が控えめだから目立たない。
「まぁ、彼女らの拡散力を侮ったらいけないってことね。あ、そうだ」
不意に両膝に痛みが走る。
「どしたの?」
「さっき来るときに、転んで膝を思いっきり打っちゃって」
「あはは、鈍くさ!」
「う……」
「さすが、『転倒虫』って呼ばれてただけのことはあるわ」
それ、中学生の時につけられた私のあだ名だ。まだ覚えられていたなんて……。
「うるさいなぁ。別に転びたくて転んでるわけじゃないし。今日のは事故よ。ピンヒール履いた貫禄のあるオバサンに突き飛ばされたのよ」
「何それ! 超見たい! ねえ、動画ないの?」
「あるわけないでしょう」
「あはは、そりゃそーだ」
「さっきエレベーターに一緒に乗ってた人がツイ〜トするって言ってたのはチラッと聞こえたけどね」
「え、マジ? あたしも気になる。見てみよ」
梨歩はいつもこんな感じで、半年前から病床に臥している。本人曰く、“人一倍元気な病人”らしい。
「えっと、#ピンヒール #オバサン、と……」
「ちょっと、何してるの?」
「え、ツイ〜トだよ。めっちゃ気になるからさ」
「さすがに早すぎるでしょ」
「……あ、もしかしてこれかも」
「え?」
嘘でしょ。だって、まだ10分も経っていないはずなのに。
「あはは!『さっき病院の上りのエレベーターの中で、潰れそうなピンヒール履いた100キロくらいのオバサンがいたんだけどォ! 女の子突き飛ばして2階で降りてった! ヤバくねェ?』だって」
「ホントだ……」
SNS恐るべし。
「しかも、すでに何件かリツイ〜トされてる。皆暇なのかな? コメントもあるよ」
「『ツイ〜ト早くね? ホントに今の今だしwww』って……。絶対さっき一緒にいた人じゃん。そばにいながらツイ〜トもするって……」
あのオバサン、まさか自分がSNSでネタにされてるなんて夢にも思わないだろうな。
「それにしても、ギャルの拡散力ヤバいね」
「梨歩、会ってもいないのにギャルってわかるの?」
「え? アイコンからしてギャルじゃないの、この人。アカウント名も“卍ァャヵ卍”って」
まさかの顔写真。身バレとか気にしないのだろうか。しかも卍囲みって、センスが微妙。さらに意外と名前表記が控えめだから目立たない。
「まぁ、彼女らの拡散力を侮ったらいけないってことね。あ、そうだ」