(え……)
 エレベーターに乗っていた何人かの人たちが、扉を開けて待っていてくれた。
「す、すみません。ありがとうございます」
 世の中は決して、捨てたものではない。そう思うと同時に、胸が熱くなる。
 私は彼らの厚意に感謝し、再びエレベーターに乗り込んだ。

「ね〜ェ、さっきのオバサンヤバくな〜いィ? 2階で降りるくらいなら階段使ってほしいんだけどォ〜」
 セミロングの巻き髪を金髪に染めた、海外セレブ風の女性。
「言えてるー。たった1フロアでしょ? なのにエレベーター使うなんてあり得ないよね。病人とか怪我人って感じでもなかったしー」
 ショートヘアーの、古着をお洒落しゃれに着こなした女性が言った。
(ど、同感)
「そうそう。てかさ、見た~? あのオバサン、ピンヒール履いてたんだけど~」
 続いてつけ睫毛を3枚くらい盛ったような派手なメイクの女性が言った。
「なにィそれ、ヤッバ!」
「外反母趾で通院ー?」
「いや、それならクロックスかスリッパで来るでしょ~。多分」
「てか、整形外科隣となりの病棟だしー?」
「やッばァ! 超ウケるわァ。アヤカあとで“ツイ〜トし”よォ」
 3人とも、大学か専門学校の友達、といったところだろうか。彼女たちの間では、すっかりさっきのオバサンのネタで持ちきりだ。ピンヒールオバサンのツイ〜ト、忘れてなければ後で私も見てみようかな。
(SNSの拡散力、凄まじいからなあ。動画だったら公開処刑同然だわ)
 エレベーターの上昇音が止まり、「4」のランプが消えた。