「ぷッ! くくく……」
 やっぱり、面白い。
「わ、笑わないで! 本当に怖かったんだから!」
「ははは、ごめんごめん。僕はいつでもいいから」
「え……?」
「冗談だよ。いちいち素直に反応してくれるから、面白くてつい」
「ひ、ひどい……」
「ごめんね、もうしないから。それじゃあ本題に進むとするかな」
 僕はドラムセットの陰から楽器入りの黒いハードケースを運び出した。
「あ、兄貴。本気だね」
「当たり前だ」
 ハードケースを開け、楽器を肩にかける。
「よし。準備OKだ」
 僕はマイクスタンドの前に立つ。
 クリスタル仕様の小型のハープ。僕の相棒だ。
 教会とかに置いてあるグランドハープとはまた違い、軽やかなのにどこか荘厳な雰囲気はある。
「それじゃ、まず音出しから」
 僕が弦を爪弾くと、揺らめく独特の澄んだ音色が響き渡る。直後、歪んだ機械的な電子音が重なり、柔らかな音に重厚感が増す。
 やがて各パートの音色が紡ぎ合う糸のように、様々な旋律が共鳴し合う。
「それじゃ、いくよ」
 キリトがカウントを刻み、演奏がスタートした。
 転がるような軽快なメロディーラインを弾きこなすのは、シンセサイザーを操るエリサ。グラスハープの音とストリングスが重なったところに、シンプルなピアノの音をかぶせて繊細かつ流麗な旋律を奏でていく。

雨滴(あましずく)(はじ)くような、潤いに満ちたサウンド――
銀糸(ぎんし)を紡ぐような滑らかなタッチ。
 驚くほど透き通った旋律に、僕の声を重ねていく。
 そして、梨歩の生み出したフレーズ。
 あの日から、すべてはこの瞬間に繋がっていたんだ。
 梨歩が描いた世界。
 その向こう側にある彼女の夢の答えを、僕も見つけたような気がした。