「無視していいよ、若葉ちゃん」
 ああ、妹の非礼を何と詫び倒していいものか。
「ねぇ。ウチのこと、見たことない?」
 エリサはお構いなしに彼女に絡み続ける。
「え、ええっと……。CanDyのELLIEに似てるかなあ、って」
「本物じゃ、ボケ」
「エリサ! いい加減にしろ!」
 僕は近くにあった楽譜(スコア)でエリサの頭を小突いた。
「いった! 兄貴のくせに生意気な!」
 CanDyの看板モデルの実態を知り、今、彼女はどんな思いでいるのだろう。きっと複雑な心境だろう。多分、もうニ度とあの雑誌を手に取ることはないだろう。
「お前だってまだ高1だろうが。俺らより年下のくせにいちいち生意気なんだよ。ちったぁ(わきま)えろ、性格ブスが」
 ギターの調弦をしていたミナトがイライラした様子でエリサに言い放つ。
 嫌な予感。
「はあぁ? 何なのあんた。対して存在感もないのに頭だけ真っ赤にしてさ。そんなんだからモテないんだよ、このトマトヘッドが」
「ぁア? 何だ、やンのか?」
「ああ、もう! 喧嘩なら後にしてくれない? 今日はゲストが来てるんだからさぁ」
 キリトが仲裁に入り、何とか場が収まった。
「ごめんね、若葉ちゃん。せっかくの誕生日なのに。あの二人、特に仲が悪くて。顔合わせるたびにいつも喧嘩になってさ」
「……へぇ、それでよく一緒にバンドやってるわね」
「やっぱりそう思う?」
「あ! ご、ごめんなさい、つい……」
「いいよ、本当のことだし。あ、あれでも演奏中は驚くほどみんなストイックだから」
 期待してて、と笑顔を向けるエディさん。
「ところで、若葉ちゃん」
「え、何?」
「さっき僕がドア開ける前まで、何想像してたの?」
「……それ、今聞くの?」
「うん。ずっと引っかかってたからさ」
 彼女は俯く。
「な、何って……エディさんが全然教えてくれないから、てっきり……」
「てっきり?」
「……襲われるのかと、思って……」
 何と。